「はー……」

 詩穂は橋の欄干に両腕をかけて顎を乗せ、深いため息をついた。見下ろした川面はどんよりと濁っている。いや、濁っているのは川のせいではない。映っている空が今にも泣き出しそうだからだ。案の定、ポツポツと小さな滴が降ってきて、川面に次々と波紋を作り始めた。詩穂のネイビーのスーツにも、マロンブラウンのセミロングの髪にも、秋雨がしとしとと降り注ぐ。

 弘哉の会社を退職して二ヵ月になる今日は、ある会社の中途採用試験だった。会社に向かっていたとき、青い顔で歩道にうずくまっているおばあさんを見つけ、放っておけずに病院まで送っていった。そのため採用試験に大幅に遅刻してしまい、事情を説明して残りの時間で筆記試験を受けさせてもらえたが、結局三分の一くらいしか解答できなかった。どう考えても不採用決定だ。

 なかなか景気が上向かないこのご時世、たいした資格も持たない自分が再就職しようと思えば、大変なのはわかっている。いったい何社受ければ採用にたどり着けるのか。そもそも自分を採用してくれる企業なんてあるのだろうか。

 惨めな気持ちが募り、もう一度ため息を吐いた。不覚にも目が潤んできたけれど、雨が降ってくれて逆に好都合だ。

「ふ……っ」