マンションに着いて下から見上げたが、二〇〇一号室に明かりがついているのかはわからなかった。ショック、悲しみ、惨めさ……。いろんな気持ちがない交ぜになったまま、エレベーターで二十階に上がった。エレベーターの扉が開き、そうっと共用廊下を覗いたが、ジェニファーの姿はない。

 それも当然かもしれない。腕時計の時刻表示はもう六時を回っていたのだから。

 詩穂はゆっくりと廊下を進む。

 部屋のドアを開けて蓮斗がいたら、なんて言おう。彼はジェニファーと詩穂が会ったことを知っているだろうか? 知っているだろう。ごまかすだろうか? そもそもジェニファーも部屋にいたらどうすればいいのか。

 だけど、ほかに選択肢はないのだ。

 詩穂は大きく息を吸った。覚悟を決めて鍵穴に鍵を差し入れ、そうっと回した。カチッと音がして、鍵が開く。そろそろとドアを引いたが、玄関には蓮斗の靴も、キャメル色のハイヒールもなかった。ホッとしてドアを閉めて、室内に上がる。

 蓮斗がいないのなら、今のうちに荷造りをして出ていこう。