その週の金曜日、詩穂なりに練ったアプリの設計図が昼過ぎに完成した。

 蓮斗からプログラミングの本を借りて仕組みを勉強し、わからないときは彼に説明してもらった。そうして今の詩穂にできる最善の設計図を描いたつもりだ。

 詩穂はドキドキしながら、ノートを持って蓮斗のブースに向かった。

「須藤社長」

 壁を軽くノックすると、蓮斗がチェアに座ったままくるりと回転して、こちらを向いた。今日の彼は白いワイシャツにチャコールグレーのスーツを着ていて、ボルドーのネクタイがスタイリッシュな印象だ。

「どうした?」
「あの、アプリの設計図ができました」
「見せて」

 蓮斗が手を伸ばし、詩穂はおずおずとノートを渡す。いくら勉強したとはいえ、所詮は付け焼き刃。アプリはもっぱらインストールして使う側だった自分が描いた設計図を、プロの開発者である彼はどう思うだろうか。

(話にならないとか、子どもの落書きとか言われたらどうしよう……)

 緊張しながら見ている詩穂の前で、蓮斗がノートを開く。ページをめくって、詩穂が描いたイラストや記入した説明文をしばらく見て考えていたが、やがて顔を上げた。