稀一郎さんは大きな溜息をつき、「そういう事か」と言うと、深田恭子さんの事を話してくれた。

彼女については、多少の違いがあるにしても、基本さっちゃんから聞いていた話と同じだった。
だが、驚いた事に桜花崎さんの弟さんと、彼女は結婚する仲では無かったと言う。

「じゃ、婚約してたって言うのは嘘?」

「嘘と言うのも違う。
確かに穣君と彼女は婚約してた事になってる。
結婚に向けての準備も進んでたしな」

結婚する仲じゃないのに、婚約して結婚に向けての準備も進んでた…?
意味わかんない。

驚く私に、桜花崎さんは「俺への嫌がらせだったんだ」と話した。

「桜花崎さんに嫌がらせ?」誰が?

「柊真と彼女は付き合ってた。
正確には、好き合ってた。と言った方が正しいよな?」と桜花崎さんに問いかける様に稀一郎さんは言う。
だが、それに桜花崎さんは何も答えなかった。

え?
どう言う事?
深田恭子さんと桜花崎さんは相思相愛だったのに、桜花崎さんの弟さんが、割り込んだって事?
嫌がらせって…なんで?
お兄さんが好きな人を弟が奪うって…
何があったの?

「柊真達兄弟にも色々あってな…
まぁ、一言で言えば、柊真への愛情表現だったって事」と稀一郎さんは言う。

愛情表現…?
お兄さんの好きな人を奪う事が?

「で、今は…」

「今は、修復されてるよな?」

「さぁな?
穣とは連絡取り合ってないし、彼奴が、今何処で何してるか俺は知らない。
親父とお袋は知ってるみたいだけどな?」

何処で何してるか知らなくて、修復されてるって言うの?
兄弟ってそんなものなの…?
兄弟の居ない私には分かんないけど。

でも…彼女とは…修復出来なかった?

「だから、彼女はスイスへ?」

「彼女がスイスに行く事は、穣君が現れる前から話はあったんだ。
柊真は彼女を一人前のバトラにそだてたかったから」

え?
桜花崎さんの弟さんとの婚約話が、無くなったなら、桜花崎さんと結婚すれば…