先ほどよりも幾分も居心地が良くなった車内で、恵巳は顎に指先を当てた。トントンと軽くたたいた後、言いにくそうにしながらも口を開いた。

「一般論ですが、タイプでなくても交際して長続きする人もいるし、結婚する人もいると思います。むしろ、そういう人の方が多いのではないでしょうか。皆が皆、自分のタイプの人と結婚していたら、きっと大変なことになってしまいます。

かつての日本だって恋愛結婚は稀で、いくつも歳が離れた相手と何もわからないままに結婚なんてこともあったんですよ。それでも一生を添い遂げていた。

だから、何が言いたいかと言うと、ちょっとわからないのですが…」

話しているうちにまとまらなくなってきた恵巳に、拡樹は大きく頷いた。

「はい、わかります。
恵巳さんが僕のことを好きになることは充分にあり得るということですよね?」

「あくまで一般論ですよ」

「それに、その方が運命を感じます。相手のことを知らないままに結婚しても一生添い遂げることができたというのは、知っていくうちに愛が芽生えたからなんじゃないですか。

恋愛結婚なんて、時代が作り出した流行りでしかないですもんね。これから恵巳さんが僕のことを好きになってくれたら、それは本当の愛だと思うんです。そう思いませんか?」

そうですかね、と簡単に返した恵巳は、溜息交じりに微笑みを浮かべる。

窓の外を見ると、サイドミラーに映された、口角の上がった自分の顔が目に飛び込む。はっとして顔を背けると、何も見ていないふりをして、慌てて話題を変える。