助手席に座って、流れる街並みを見ている恵巳だが、内心冷汗が止まらず、全力で助けを求めていた。焦って乗り込んでしまったことを心底後悔していた。

ハンドルを握る拡樹は一言も喋らず、ただ前だけを見つめて車を進めている。いつものような温和な雰囲気は影を潜め、何を考えているのか、その表情からは読み取れない。静かすぎる車内は、何か話しかけるどころか、息をするのも憚られるような空気を閉じ込めている。

こんな拡樹を見たことがなかった恵巳は口の中が渇いていくのを感じていた。そんな空気をどうすることもできず、ただ早く家に着かないかとひたすら外を眺めていた。

2人を乗せてひたすら走る車は、交差点の少し手前で右側に車線変更し、そのまま交差点に差し掛かかり、大きく右折した。

「え?なんで右…?」

「わかってます」

それだけ言うと、再び静まり返る。赤信号で止まった車内には横断歩道を渡る人々の楽し気な笑い声が侵入してくる。