今日の来館者数も数えるほど。夕方には誰もいなくなっていたが、一応閉館時間の18時まで待ち、戸締りをする。外ののぼりを片付けていると、後ろから声がした。

「めぐ!お疲れ!
昼間もここの前通ったけど、相変わらずガラガラだな」

仕事帰りの蓮が丁度通りかかったらしい。くたびれたワイシャツが一日の疲れを表しているが、その明るさはいつも通りだ。

「まあね。今からまた家族会議するんだって。旅館を予約してるみたいだから、今日こそお父さん、決断するつもりなんじゃないかな。

あ、もしかしてまたお母さんから誘われたりしてる?」

「いいや、誘われてない。さすがにそんな大事な話に俺がいたら変だろ。親父さん、そうか…。残念だけど、こればっかりは仕方ないよな」

ネガティブな会話に空気が沈みそうになるが、あえて明るく振る舞った。

「心機一転ってことで。これからのことをしっかり話し合ってくるよ。実はやまやんには感謝してるんだからね。宣伝も手伝ってくれたし、この間はお母さんに荷物運びもやらされたんでしょ?
そんなの断ってもいいのに」

高校時代から小関家と付き合いのある蓮は、こうして頻繁に恵巳に会いに来ていた。交流館が潰れるかもしれないと知ってから、蓮なりに手を尽くしてくれてはいたが、時代の波には逆らえなかった。

鑑定士を目指すきっかけがこの交流館だったこともあって、守りたい気持ちが大きかったが、いよいよ消滅してしまう夢の出発点。寂しい気持ちを抱えていた。

「いやいや、荷物運びくらいしますよ。なんなら、今から旅館まで運びましょうか?」

「私が荷物ってこと?
ふざけないで。罰として、旅館までよろしく」

慣れた様子で助手席のドアを開けて乗り込んだ恵巳。仕方ねーなと言いながら、蓮も運転席でシートベルトを締めた。

車はゆっくりと走り出し、夜の繁華街を抜けて旅館へ向かった。