午前中の仕事を終えたその足で、近くの古書店に来ていた。本を見に来たのではなく、本を並べるために。

「いつも悪いね。年寄りばっかりだから高いところに手が届かなくてね」

「お互いさまなんだから気にしないで」

古い本と木の香りが漂う古書店で、本棚の最上段に本を入れ込んでいる恵巳。祖父母の代から付き合いのある古書店で、時々こうして古書の整理を手伝いに来ている。店を経営するのは老夫婦で、足腰も悪くいろいろと不便なことも多いらしい。

いつもなら1日で終わるのだが、今回はなぜか3日連続で顔を出していた。

「それにしても、こんな毎日来るなんて珍しいね。家でなんかあったのかい?またお父さんと喧嘩でもしたか?」

店主のおじいさんが腰をトントン叩きながら尋ねる。それに答えたのは、隣で杖をついて立っている店主の妻。

「いいや違うでしょ。そんな喧嘩したなら、家出するのはどっちかって言うと父親の方さ。恵巳の方が気が強いんだから。
何か他に理由があんだろう」

心を見透かされたようでぎくりとした。が、そんな動揺は隠して本を順番に並べていく。