「だーかーらー!なんでお父さんとお母さんが拡樹さんと連絡取り合ってんの!?またこんなの勝手に決めて!」

ある平日の朝、恵巳は父を大声でを追いかけまわしていた。危機を感じた父は、逃げ惑った子犬のようにリビングを駆け回り、最終的に母の背中に隠れた。

「ママ―、恵巳が僕のこと怒るんだよー」

情けない表情で背中の後ろから出てこようとしない。泣きつかれた母は、父に構うことなくどこからか出してきたパンフレットをウキウキしながら恵巳に見せた。

「見て見て。とっても素敵な温泉よ。景色も綺麗みたいだし、リラックスできそうじゃないの。

どうせこの日、暇なんでしょ?あれこれ考えないで行ってみたらいいじゃない」

「そうだぞ。気だって合うみたいじゃないか。とにかく、空けておくんだぞ」

母に助け舟を出してもらった父は、どんどん調子に乗っていっていた。背中に身を隠したままで、顔だけ出して恵巳に反撃していた。