弟 来海 STORY

【姉さん…、姉さん?】



何回か呼んでも返事しない。



姉さんの目線を追うと、1人の男性がいた。



目を凝らして覗いてみると、あの有名なアイドルだった。



【何故こんなところに…?】



疑問に思いながら、姉さんを呼ぶ。



すると、5回目ぐらいでこっちを見た。



そして、頷き駆け足で来た。



「ごめん、待たせた」



何事も無いかのようにそう言ったけど、やっぱりいつもと違う。



いつもは、人を殺した後なのに冷静で何を考えているか分からなく、ずっと前を見つめているのに…



【姉さん、なんかあった?】



そう訪ねると、少し驚いた様な顔をして



「何で来海はそう思う?」



不思議そうにそう言った。



【なんでって、俺姉さんの弟だし。毎回迎えに来てるからさ】



そう言うと、



「迎えに来るだけでそんなことも分かるのか…来海凄いな…」



と、少し目を開いて言ってきた。



なんだ…姉さんにも可愛い所があるんだ…



他の人達よりも姉さんのことを知った気がして、少し嬉しくなり頬が緩んだ



だけど、シャルレットはそんな時間も与えてくれない



【来海、佳蓮。今からある男を殺して欲しい。】



「なんだ、シャルレット?」



【珍しい、佳蓮が喋ってるな…いや、そんな事より…】



姉さんが話している事を驚いたのか、少し声の調子が変わった。



前よりも生き生きしてる様な感じの話し方だった。



【シャルレット、早く教えてよ】



そう言うと、



【あ、あぁ…悪い。実は、ハン・ソクヒョンって言う、アイドルだ。】



「アイドル…?」



ハン・ソクヒョン…。



その名前を聞いて思い付いたのは、今あるドラマに出ていて韓国で人気な俳優だ。



【まさか、あの…?】



心当たりがあり少し焦った調子で聞く。



シャルレットは、当たり前だ…と言うかのように



【禁断ストーリーというドラマに出ている、俳優だ】



そのドラマの名前を聞いた瞬間に思い付いたあの顔。



ちらっと、姉さんを見ると舌を舐め目を細めている。



この仕草は、毎回暗殺を行う時にする行動で、楽しみ…という気持らしい。



【なんだ、来海。何かあるのか?】



感づきやがった…シャルレットめ…。



【そんな事ねぇよ、早く殺してぇな…】



無意識に、指が落ち着きをなくしソワソワする。



そんな中、聞こえた姉さんの声。



「私が殺る」



【え?だっ…】



「毎回そうだろ、何故今頃になって来海、お前が出る?」



そう言われると、確かにそうかもしれない。



俺は、ろくに前に出たことが無い。



もしかすると、1度も人を手に掛けたことが無いかもしれない。



【確かに、佳蓮の言う通りかもしれない。】



「だよな、なら決定でいいだろ?」



目がキラキラしている佳蓮。



【分かったよ。また俺が迎えに行けばいいんだろ?】



「そうだ、理解が早くて助かるよ来海は」



【じゃあ佳蓮、来海は明日の夜10時にいつもの所に来てくれ】



「分かりました」



【了解】



俺の頭の中は既に、ソンヒョンのことしか頭にない。



もし、さっき姉さんがあいつの顔を見ていたらきっと実行はできないだろう。



何故なら、あんなにも人に興味を持ったのは初めてだしずっと眺めていたから。



【姉さん、さっき見てた人のさ…顔みた…?】



そう聞くと、



「さっき見てた人…?誰の事だ?」



【あ、えっと、さっき見てた人。ほら、俺が迎えに行った時…】



そう言うと、思い出したのか



「あぁ…顔か…。見てないな。覚えていない。それがどうかしたのか?」



“覚えていない”この言葉を待っていた。



【いや別に。ちょっと気になっただけ】



「そうか。変わったやつだな」



その言葉と共に眠りに入った姉さん。



寝顔だけを見ると、本当の女子高校生。



いや、普通の高校生なのに性格が会社の人間から言われるほどの冷徹女なのだから変わったもんだ。



【俺が、血を繋がってないって言ったら姉さんは悲しんでくれるかな…】