秦野(ハタノ)さん、ちょっといい?」

目を通していた資料から顔を上げて、少なく見積もっても8つは歳下だと思う部下に声をかけると、彼女があからさまに肩を震わせた。


「ちょっといい?」

もう一度声をかけてみたけれど、彼女は私から遠く離れたデスクから怯えた小動物のような目でこちらを見つめるだけだった。


「秦野さん、ちょっと来てもらえる?」

私の言い方が悪かったのか。

明確に用件を伝えると、ようやく立ち上がった彼女が私のデスクの前にやってきた。


「秦野さんが提出してくれた企画書だけど、もう一度出し直してもらっていい?」

手にしていた書類を差し出すと、彼女が「え?」と小さく戸惑いの声をあげた。


「でもそれ、今朝訂正して出し直したばかりですけど……」

まさか反論されるとは思わなくて、私は大きく目を見開いて、それからひとつ瞬きをした。