「頭を低くして、静かにするんだ」
緊迫した空気を肌で感じた私は声を潜める彼にとりあえず頷いて従うと、後部座席からバルドさんの声が聞こえる。
「十、いや十五人はいるな。車輪はどうやら、このランチワゴンを取り囲んでいる盗賊たちに矢で射られたようだ」
「はあ!? 先に言っておきますと僕は戦えませんから、ここは盗賊よりも極悪人面のバルドがちゃちゃっと片付けてきてください」
さらっと人の傷を抉るような発言をしたオリヴィエに、バルドさんは渋い顔をしたけれど大剣を手にとった。
そのとき、外から「そこから出てきな、抵抗はするなよ? 命が惜しければな」という男性の声が聞こえてきた。
私たちはこの場で最善の判断ができるだろうバルドさんを見る。
「やむを得んな、今は従おう」
それに従って私はロキだけをランチワゴンに残し、外に出た。
すると、どうやってそこまで登ったのか、真っ正面にある高い木の上に褐色の肌に燃えるような赤い髪と瞳の男がしゃがみ込んでいる。
胸元あたりまでしかない黒のタンクトップのようなものの上から深緑のマントを羽織り、下は茶色のサルエルパンツのようなものを穿いていた。
腰には髪色と同じ赤色の帯が巻かれていて、男は手甲から伸びた鉤爪をぺろりと舐めると片側の口端を吊り上げた。