「雪のお母さんはジゼルっていうんだ……。ちなみに、あの劇に出てくるお姫様は実在するよ。本当に旅に出たかはわからないけど、嫁ぐ途中で姿を消したっていうのは本当」

「えっ、そうなんだ……」

「もう二十年も前の話になるけどね」


なんとなくエドガーの話が気になりながらも、私たちは近くのレストランに入る。

ガラスウィンドウがすぐ隣にある席に座り、エドガーのおすすめで牛肉入りのスープとフォッカチオを頼んでもらった。

少しして料理が運ばれてきたので、私はエドガーと手を合わせて「いただきます」と言うとスープを見つめる。

ワインが使われているのか赤黒いスープの中央には、白のクリームが浮いている。

スプーンでスープと一緒にゴロゴロと贅沢なほど浸かっている牛肉をすくうと、息を吹きかけて冷やしながら口に入れた。


「んうう!?」


──これ、ボルシチだ!

玉ねぎやじゃがいも、ビーツから染み出た旨味と濃厚なスープがしっかり溶け合っていて、口の中で常に味が変化し続けているので飽きない。

牛肉は歯で嚙み切る前に、ほろっと崩れて柔らかかった。

一度目はスープだけで、二度目は熱々のフォッカチオにつけて食べたら、これもまたほっぺたが落っこちそうになって舌鼓を打つ。