フェルネマータを経つ前日、私たちは働きづめだったので休みをとることにした。

とはいえ、休日にじっとしているのはもったいない気がしていた私は、絶妙なタイミングで『一緒に城下町に行こう』とエドガーに誘ってもらい、劇場に来ている。

演劇の内容は他国からフェルネマータに嫁いでくるはずだったお姫様の話。

過去形なのはお姫様が結婚が嫌で、この国へ移動する途中に逃げ出して旅に出てしまったからだ。


「行動力がある人だったんだね。ジゼル姫って」


私は演劇を鑑賞して劇場を出ると感想を口にしたのだが、すぐにむず痒さを感じて「ああ、ダメだ」と腕をさする。

隣を歩いていたエドガーは、私の不審な動きに目を瞬かせた。


「どうしたの?」

「実はね、お姫様の名前が私のお母さんの名前と同じなの」


私の国ではジゼルなんて外人みたいな名前は珍しいので、ついついお母さんの顔がちらついてお話が頭に入ってこなかった。