「でもバルドさん、休暇だって言いながら時間があると鍛錬してますよね」

「ああ、身体が鈍りそうでな」


そんな私たちのやりとりが耳に入ったのだろう。

ランディが窓から顔を離して、「おいおい」と白けた目をする。


「俺たち、これから長い付き合いになんだろ? さん付け、敬語はやめねえか」

「呼び方なんて、どうでもよくありません?」

「オリヴィエ、呼び方ひとつで距離ってのはぐんと近づくもんだぜ。俺ら森の狩人では仲間は全員家族だ。年齢性別関係なしに下の名前で呼ぶってのが、規則だったぞ。つうーわけで、お前も敬語はよせよせ」


ランディはオリヴィエの首に腕を回して、絡んでいる。

それを鬱陶しそうに解きながら、ランディは「僕の口調は癖なので、やめられませんよ」と抗議していた。

そんな仲間たちの会話に平和だな、と思いながら窓の外を見ると青空が広がっている。

白い雲は風に押し流されるようにしてゆったりと流れていき、私たちもあの雲のようにどこまでも行けるだろうと根拠もなく思った。

天気に恵まれて気分も自然と上向くのを感じていると「うまくいきそうだね」とエドガーに話しかけられる。

運転席を見ればハンドルを握ったエドガーが後部座席で雑談しているランディたちをちらっと見て、私に笑いかけてきた。


エドガーにそう言われると、絶対にうまくいくってそう思えるから不思議だな。


私は小声で「うん」と頷いて、まだ見ぬカイエンスの国に思いを馳せるのだった。