弟の叶太がインフルエンザに罹患して家に戻って来た翌日、月曜日の朝。

 俺は同じ家にいながら、またしても叶太と電話で話をしていた。いや、話をすると言うか、叶太が話すのを聞いていた。

 まだ熱が下がらないらしく、おでこにはジェルのシートが貼られている。ビデオがオンになっているから表情まで分かる。顔色はイマイチだが、高熱が丸一日以上下がらない割には元気そうだ。

「兄貴、聞いてる?」

「聞いてる、聞いてる」

 苦笑しながら、相づちを打つ。

 ホント、叶太は過保護だ。まあ、気持ちは分からないでもないけど。ハルちゃんは本当に身体弱いし。
 だけどやっぱり、叶太のこれは行き過ぎじゃなかろうか。過保護とか心配性を通り越してる気がする。

 ……溺愛? ちょっと違うか。

「ハルは大学生になってから、軽く化粧をするようになって、顔色が分かりにくくなったから、気をつけてあげてね?

 あ、もちろんオレは分かるんだけどね? やっぱシンドイと表情が違うし、ハル、そんな濃い化粧してないし」

 叶太は最愛の妻、ハルちゃんのことを俺に頼むとしきりに言う。

 俺にしても、ハルちゃんは可愛い義妹だ。
 義理の妹以前に、隣に住む(住んでいた)親友がそれこそ溺愛している妹で、ハルちゃん一家が隣に越してきて以来、十年以上のつきあいだ。叶太と結婚していなかったとしても、俺にとっても実の妹同然の女の子でもある。

 気にかけてやってくれと言われるなら、もちろんそうするし、何かあったら助けるのだって当たり前だ。

 と思っているのに、叶太はひたすらハルちゃんの事を頼み続ける。