卒業式の後、うっかり風邪を引いてしまった。

 気管支炎を起こして咳がひどくて呼吸が不安定になり、一週間入院した。咳はまだ残っていたけど熱は下がったし、後は日にち薬だろうと退院させてもらった二日後、わたしは目を覚ますと同時に、ベッドの中でカナの満面の笑顔と優しい抱擁に包まれた。

「ハル、お誕生日おめでとう」

 ……ああ、そうか、今日はわたしの十八の誕生日だ。

 例年、わたしの誕生日には牧村家と広瀬家のみんなが勢ぞろいして、バーベキューパーティでお祝いをしてくれる。だけど今年のバーベキューは中止になった。
 もうほとんど治ったのだけど、気管支の調子がまだ完全じゃないから、煙の出るバーベキューは止めた方が良いだろうとの配慮だった。

 何だか、本当に申し訳なくて仕方ない。

 これまでだって、入院中だったり体調が悪かったりでバーベキューが中止になったこともある。そんな時は、病室でのささやかなお祝いだったり、家の中でのパーティだったりに切り替わる。
 だから、そう言う年もあるよね、と誰も気にはしていないと思う。だけど、本当はいつも通りの誕生日を過ごしたかった。

 去年の誕生日に、カナからの思いがけないプロポーズを受けて、失礼にもわたしは体調を崩して倒れた。せっかくの集まりを台無しにした気がする。
 そんな事もあり、本当の家族になって最初の誕生日の今日は、できるならみんなに「ありがとう」の気持ちを伝えたかったし、今までで一番楽しい会にしたかった。

 お礼だけならいつでも言える。だけど、多忙な広瀬、牧村の家族が全員集まるなんて、多分、一年に一度、この日だけ。だから、珍しく全員が誰も欠けることなく集まるこの日に、いつもありがとうと伝えたかった。

 ……のに、なぜわたしはうっかり風邪など引いてしまったのだろう。