桜のつぼみはまだ固い。だけど、桃が少し咲き始めていて、梅の花は満開。
そんな三月の中旬、雲一つない快晴の空の下、今日、オレたちは杜蔵学園の高等部を卒業する。
卒業式の朝、オレはいつものように5時半に目を覚ました。まだ日の出前。予報では、今日は晴れだけど、どうだろう。
隣には、すやすやと眠るハル。
緊急用にフットライトが幾つか付けてあって、ハルの顔もちゃんと見える。
閉じられた目を縁取るまつげは長く、ふわりとハルの頬にかかる髪の毛は柔らかそうで、思わず手を伸ばしてしまう。
フットライトの明かりでは顔色までは分からないけど、呼吸は穏やかで、体調は悪くないと思う。
オレたちの部屋にはセミダブルのベッドが2つ入っている。ハルの調子が悪い時は別々に寝るけど、体調が良い時は一緒に寝る。もちろん、オレがハルの温もりを感じていたいから。
ハル、愛してる。
声に出さずにそう言って、そっとハルの髪を手に取り口付ける。
結婚して半年以上になるのに、ハルがオレの奥さんなんだと思うと例えようもない幸福感で全身が満たされた。
オレたちは去年の夏、オレの十八の誕生日に結婚した。その数日後、ハルは入院し、大きな開胸手術をした。術後、何度も生死の境をさまよい、ハルが退院して家に戻ったのは十一月。
その後もハルは度々体調を崩して短期間の入院をした。入院中、ハルがいつもの特別室にいる時はすべて泊まり込む。学校があろうが関係ない。だけど、ICUやHCUにに入っている時は泊まれない。
そして、病院に泊まり込めば一緒にはいられるけど、生活を共にしたとは言えないんだ。だから、結婚式からの七ヶ月の内、ハルと共に暮らしたと言える時間は、本当のところ随分少ない。
だけど、結婚前と比べたら、ハルとの時間は何倍にもなっている。病室に泊まれるのだって結婚したおかげだし、家にいる時は、朝起きたらハルがいて、朝ご飯を一緒に食べられる。夜だって、夕飯も一緒に食べられる上、眠ってからも同じベッドにいられるんだ!
高校に入学した頃は、ハルと色んな行き違いがあって、もうダメかと思ったこともあった。それが今、オレはハルの夫としてハルの隣にいる。
あの頃を思うと、今、こうしているのが奇跡のようだ。
嬉しくて嬉しくて、思わず笑顔になってしまう。
そんなことを考えながら、気が付くと、無意識の内にハルを抱きしめていた。
「……ん、…カナ?」
オレは慌てて、だけど努めてゆったりと言葉を紡ぐ。
「ごめん、起こしちゃったね」
それから、ハルの頭をそっとなでる。
「まだ朝早いよ。少し走りに行ってくるね。ハルは寝ておいで」
「……ん。気を、つけてね」
ハルはうっすらと目を開けると、オレの手を取り頬を寄せた。
「ああ。行ってきます」
「……ん。行って…らっしゃい」
ハルは半分夢の中のようで、そのままスーッと眠ってしまった。
オレはそっとベッドを抜け出すと、ジャージに着替えて音を立てないように静かに部屋を出た。
そんな三月の中旬、雲一つない快晴の空の下、今日、オレたちは杜蔵学園の高等部を卒業する。
卒業式の朝、オレはいつものように5時半に目を覚ました。まだ日の出前。予報では、今日は晴れだけど、どうだろう。
隣には、すやすやと眠るハル。
緊急用にフットライトが幾つか付けてあって、ハルの顔もちゃんと見える。
閉じられた目を縁取るまつげは長く、ふわりとハルの頬にかかる髪の毛は柔らかそうで、思わず手を伸ばしてしまう。
フットライトの明かりでは顔色までは分からないけど、呼吸は穏やかで、体調は悪くないと思う。
オレたちの部屋にはセミダブルのベッドが2つ入っている。ハルの調子が悪い時は別々に寝るけど、体調が良い時は一緒に寝る。もちろん、オレがハルの温もりを感じていたいから。
ハル、愛してる。
声に出さずにそう言って、そっとハルの髪を手に取り口付ける。
結婚して半年以上になるのに、ハルがオレの奥さんなんだと思うと例えようもない幸福感で全身が満たされた。
オレたちは去年の夏、オレの十八の誕生日に結婚した。その数日後、ハルは入院し、大きな開胸手術をした。術後、何度も生死の境をさまよい、ハルが退院して家に戻ったのは十一月。
その後もハルは度々体調を崩して短期間の入院をした。入院中、ハルがいつもの特別室にいる時はすべて泊まり込む。学校があろうが関係ない。だけど、ICUやHCUにに入っている時は泊まれない。
そして、病院に泊まり込めば一緒にはいられるけど、生活を共にしたとは言えないんだ。だから、結婚式からの七ヶ月の内、ハルと共に暮らしたと言える時間は、本当のところ随分少ない。
だけど、結婚前と比べたら、ハルとの時間は何倍にもなっている。病室に泊まれるのだって結婚したおかげだし、家にいる時は、朝起きたらハルがいて、朝ご飯を一緒に食べられる。夜だって、夕飯も一緒に食べられる上、眠ってからも同じベッドにいられるんだ!
高校に入学した頃は、ハルと色んな行き違いがあって、もうダメかと思ったこともあった。それが今、オレはハルの夫としてハルの隣にいる。
あの頃を思うと、今、こうしているのが奇跡のようだ。
嬉しくて嬉しくて、思わず笑顔になってしまう。
そんなことを考えながら、気が付くと、無意識の内にハルを抱きしめていた。
「……ん、…カナ?」
オレは慌てて、だけど努めてゆったりと言葉を紡ぐ。
「ごめん、起こしちゃったね」
それから、ハルの頭をそっとなでる。
「まだ朝早いよ。少し走りに行ってくるね。ハルは寝ておいで」
「……ん。気を、つけてね」
ハルはうっすらと目を開けると、オレの手を取り頬を寄せた。
「ああ。行ってきます」
「……ん。行って…らっしゃい」
ハルは半分夢の中のようで、そのままスーッと眠ってしまった。
オレはそっとベッドを抜け出すと、ジャージに着替えて音を立てないように静かに部屋を出た。