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 アルフレド・ヴァイス皇帝の息女クローディア皇女の葬儀の日。
 ヴァイス帝国は深い悲しみに包まれた。
 世界各地で繰り広げられていたリーム王国との戦争は、永世中立国にあるメーツィア大神殿の法王様の名のもとで一時休戦となった。そのため、多くの軍人たちも葬儀に駆けつけることができた。
 無論、ジェイ様もそのうちの一人だった。
 どうやらジェイ様とクローディア様が恋仲であることは皇族たちの間では公然の事実だったようだ。みなジェイ様に同情の声をかけている。
 それでもジェイ様は口元を引き締めて、気丈に振る舞っていたのが印象的だった。
 当然、私は彼に一言も声をかけることもできないまま葬儀は終わった。
 そして彼は遠く離れた戦場へと戻っていったのである。

 そうして季節は冬から春へと移ろった。
 人々の心の傷も徐々に癒え、街には活気が戻ってきたのだった――。
 
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……
 
 柔らかな日差しと小鳥たちのさえずりの中、私は日課となったクローディア様のお墓の前で手を合わせた。

「クローディア様……。ジェイ様とヴァイス帝国をお守りください」

 不思議なことにここに来ると、まるでクローディア様が微笑みかけてくれているような錯覚に陥るのだ。
 きっとクローディア様は天国から私たちのことを見守ってくれているに違いない。
 一陣の爽やかな風が頬をかすめると、自然と笑顔が浮かぶ。
 白い雲がゆらりゆらりとゆっくり進んでいくのを見上げながら、私はクローディア様のことを胸の内に思い浮かべていた。
 
 ……と、その時だった。
 
「おや……? あなたは……」

 背中から声をかけられたのだ。
 あまり聞き覚えのない少年の声。
 私は急いで振り返る。そこには色白で優しそうな少年が立っていた。
 柔らかそうな金色の髪と、長いまつげが特徴的だ。
 背格好からして15歳くらいだろうか。
 でも、何よりも私の目を釘付けにしたのは、その顔立ちだった。
 なんとクローディア様の生まれ変わりかと思えるくらいに、そっくりなのだ。
 
「あの……。僕の顔に何かついてますか?」

 あまりにも私が凝視していたものだから、少年は気恥ずかしそうにうつむいてしまった。その仕草は幼くて可愛らしい。

「あ、いえ、ごめんなさい。そうじゃないの」

 慌てて少年の顔から目をそらした。そして、あらためて彼の姿を見る。
 とても気品のある姿勢。さらに手には大きな花束を持っている。
 その姿から、ふと一つの予感がよぎった……。
 
(まさか……。この人は……)

 すると少年の背後から、今度は聞き慣れた声が響いてきたのだった。
 
「こらっ! リアーヌ! 頭が高い!」

「へ? パパ!?」

 パパだ。
 ここにパパがいるとなると……。
 
(やっぱりそうだ! この人は……)

「まさかジュスティーノ殿下でらっしゃいますか!?」

 ニコリと微笑んだ少年は小さくうなずいた。

「ひゃっ! ご、ごめんなさい! 私、何も知らずに!」

 思わず声が裏返ってしまったのも仕方ない。
 なぜなら目の前の少年は第三皇子のジュスティーノ・ヴァイス殿下だったのだから……。