………
……
ヘイスターの領主となった私。
でも領主のお仕事なんて、何をしていいのか分からない。
(私が領民たちのためにできることって何だろう?)
それを数日間、真剣に悩んだ結果。
私は一つの答えにたどり着いた。
それは、
(領民たちの笑顔を増やそう!)
ということ。
だってこの町に入ってきた時から、みんな無表情で楽しくなさそうなんだもの。
そこで私は早速実践に移すことにした。
目指すのは町の中央にある大きな井戸だ。
「おはよう! みなさん!」
そこには水をくみにきた婦人たちがたくさんいるからである。
ちなみに皇都では水道が整備されていたが、ヘイスターには水道がない。
だから生活に必要な水はすべてこの井戸からくむ。
それは主婦たちの仕事の一つだとマインラートさんが教えてくれたのだ。
「え、あ……。おはようございます……」
ぎこちない挨拶だけが返ってくる。
人々は私と顔を合わせようとはせず、水をくむなり、そそくさとその場を立ち去っていく。
でも私はめげなかった。
昔から「リアーヌはあきらめが悪いね」とパパから言われていたのを思い出していた。
(そうだ! 私はあきらめの悪い女なのだ!)
だからどんなに冷たくあしらわれようとも、翌日以降もあいさつを続けたのだった。
………
……
そうして3か月後――。
「おはよう! みなさん!」
「おはようございます。リアーヌ様」
今ではすっかり打ち解けて、みんな自然な笑顔で返してくれるようになった。
語彙力に欠けるとは思うけど、とても嬉しい、という言葉以外に思い当たるものがない。
そして近頃の私は老夫婦のお宅に水を運ぶのを手伝うことにしていた。
「領主様自ら水を運んでいただけるなんて……。ありがたや。ありがたや」
中には涙を流して喜んでくれるおばあちゃんもいる。
ちょっぴり二の腕が太くなってしまったのは気になるけど、これも人のために頑張った勲章だと自分に言い聞かせている。
そして水くみの他にも色々なお手伝いを領民たちのためにすることにしたのだ。
一緒に畑を耕したり、子供たちと遊んだり……。
はじめは領主として何をしていいか分からなかったけど、いつの間にかやることでいっぱいだ。
気づけばいつも夕方になっている。
――こんな気さくで真面目な領主様は初めてだわ!
――若いのにずいぶんとしっかりしておられる!
大人たちがそうやって私を褒めてくれるのがすごく嬉しい。
そして極めつけは、小さな女の子が白い花を差し出しながらこう言ってくれたのだ。
「この先もずっと領主さまでいてください!」
ちょっとでも気が緩めば涙があふれてきそうで、差し出された花を受け取りながら微笑み返すのがやっとだったの。
さらに私を驚かせたのはこんな声だった。
――ヘンリー様ってかっこいいわね!
――はぁ……。処刑されないなら私をお嫁にもらってくれないかしら?
――あはは! ヘンリー様は誰のものでもないわ! みんなのものよ!
なんとヘンリーが町の女性たちに大人気なのだ。
そのことをちょっとでも話題にしようものなら、
「うるせえ! 俺は女になんか興味ないんだよ! リーム王国がいつ攻めてくるか分からないんだ! 今のうちに剣を鍛えておかなきゃダメじゃないか!」
ですって!
でもいつも顔を真っ赤にするから、本当はまんざらでもないのだと思うの。
ちなみにヘンリーの剣の稽古はマインラートさんがつけてくれている。
執事としても軍人としてもすごく優秀な人。
でもなぜか過去を話そうとはしないのよね……。
どうしてかしら?
なにはともあれ、すごく充実した日々が続き、領民たちの笑顔は増え、町にも活気が出始めた。
しかし、リーム王国が攻め込んでくる時がもうすぐそこまで迫っているのを、私は知っている。きっと領民たちも知っているに違いない。
(どうにかしてこの笑顔を守りたい)
いつしか自分が処刑台に立つことを回避することよりも、領民たちを戦禍から守りたいという気持ちの方が強くなっていったのだった。
……
ヘイスターの領主となった私。
でも領主のお仕事なんて、何をしていいのか分からない。
(私が領民たちのためにできることって何だろう?)
それを数日間、真剣に悩んだ結果。
私は一つの答えにたどり着いた。
それは、
(領民たちの笑顔を増やそう!)
ということ。
だってこの町に入ってきた時から、みんな無表情で楽しくなさそうなんだもの。
そこで私は早速実践に移すことにした。
目指すのは町の中央にある大きな井戸だ。
「おはよう! みなさん!」
そこには水をくみにきた婦人たちがたくさんいるからである。
ちなみに皇都では水道が整備されていたが、ヘイスターには水道がない。
だから生活に必要な水はすべてこの井戸からくむ。
それは主婦たちの仕事の一つだとマインラートさんが教えてくれたのだ。
「え、あ……。おはようございます……」
ぎこちない挨拶だけが返ってくる。
人々は私と顔を合わせようとはせず、水をくむなり、そそくさとその場を立ち去っていく。
でも私はめげなかった。
昔から「リアーヌはあきらめが悪いね」とパパから言われていたのを思い出していた。
(そうだ! 私はあきらめの悪い女なのだ!)
だからどんなに冷たくあしらわれようとも、翌日以降もあいさつを続けたのだった。
………
……
そうして3か月後――。
「おはよう! みなさん!」
「おはようございます。リアーヌ様」
今ではすっかり打ち解けて、みんな自然な笑顔で返してくれるようになった。
語彙力に欠けるとは思うけど、とても嬉しい、という言葉以外に思い当たるものがない。
そして近頃の私は老夫婦のお宅に水を運ぶのを手伝うことにしていた。
「領主様自ら水を運んでいただけるなんて……。ありがたや。ありがたや」
中には涙を流して喜んでくれるおばあちゃんもいる。
ちょっぴり二の腕が太くなってしまったのは気になるけど、これも人のために頑張った勲章だと自分に言い聞かせている。
そして水くみの他にも色々なお手伝いを領民たちのためにすることにしたのだ。
一緒に畑を耕したり、子供たちと遊んだり……。
はじめは領主として何をしていいか分からなかったけど、いつの間にかやることでいっぱいだ。
気づけばいつも夕方になっている。
――こんな気さくで真面目な領主様は初めてだわ!
――若いのにずいぶんとしっかりしておられる!
大人たちがそうやって私を褒めてくれるのがすごく嬉しい。
そして極めつけは、小さな女の子が白い花を差し出しながらこう言ってくれたのだ。
「この先もずっと領主さまでいてください!」
ちょっとでも気が緩めば涙があふれてきそうで、差し出された花を受け取りながら微笑み返すのがやっとだったの。
さらに私を驚かせたのはこんな声だった。
――ヘンリー様ってかっこいいわね!
――はぁ……。処刑されないなら私をお嫁にもらってくれないかしら?
――あはは! ヘンリー様は誰のものでもないわ! みんなのものよ!
なんとヘンリーが町の女性たちに大人気なのだ。
そのことをちょっとでも話題にしようものなら、
「うるせえ! 俺は女になんか興味ないんだよ! リーム王国がいつ攻めてくるか分からないんだ! 今のうちに剣を鍛えておかなきゃダメじゃないか!」
ですって!
でもいつも顔を真っ赤にするから、本当はまんざらでもないのだと思うの。
ちなみにヘンリーの剣の稽古はマインラートさんがつけてくれている。
執事としても軍人としてもすごく優秀な人。
でもなぜか過去を話そうとはしないのよね……。
どうしてかしら?
なにはともあれ、すごく充実した日々が続き、領民たちの笑顔は増え、町にも活気が出始めた。
しかし、リーム王国が攻め込んでくる時がもうすぐそこまで迫っているのを、私は知っている。きっと領民たちも知っているに違いない。
(どうにかしてこの笑顔を守りたい)
いつしか自分が処刑台に立つことを回避することよりも、領民たちを戦禍から守りたいという気持ちの方が強くなっていったのだった。