それはジュスティーノ殿下が戦場へおもむいてから、2週間後のことだった。

 
「ジュスティーノ殿下率いるヴァイス帝国軍がリーム王国軍に惨敗!!」


 その報せが電撃のように走ると、王宮内はパニックに陥った。
 それもそのはずだ。
 『絶対に勝てる』とされていた戦場で、しかも天下無双のジェイ大佐を派遣したにも関わらず、敗北が伝えられたのだから……。
 だけど私には帝国軍の勝ち負けよりも気になることがあった。
 それはジュスティーノ殿下の無事だ。
 
――恥ずかしい話だけど、僕は戦場で活躍できるほどの才能はない。もし敵に囲まれたりしたら、たちまち殺されてしまうだろう。

 そうおっしゃっていた。
 居ても立っても居られなくなった私は屋敷を飛び出して、パパたちがつめている議会場へと急いだ。

(クローディア様! お願いします! ジュスティーノ殿下を助けてください!)

 そう願いながら王宮内を風となって駆けていく。
 そうして目的の部屋の大きな扉の前までやってきた私は、躊躇なくその扉を開け放った。
 
――バンッ!

 大きな音とともに多くの偉いおじさんたちが私に視線を向けている。
 私は彼らをぐるりと見回した。
 そして、
 
「パパ!!」

 一直線に駆け寄る。
 目を丸くしているパパをつかまえた私は、唾を飛ばしながら問いかけた。
 
「ジュスティーノ殿下はご無事なの!?」

 パパの顔が苦悶に歪む。
 それを見た私の胸の内は不安の雲で覆われた。
 
「パパ! 教えてよ!」

 パパの胸ぐらをつかんで、ぐらぐらと揺らす。
 すると、なおも黙ったままのパパの背中から、青年の大声が響き渡ったのだった。

「ジュスティーノ殿下が生死不明の重体!!」

 ガツンと頭を殴られたかのような衝撃に立ちくらみを覚える。
 私の肩を抱いたパパは、伝令の青年に叫び返した。
 
「殿下は今どこにおられる!?」

「殿下は兵たちに護衛されながら皇都に向かわれております! ジェイ大佐が率いる『明星《みょうじょう》の五勇士』が敵の大軍を抑え込んでいる模様! 殿下は明日の朝には皇都に到着の予定です!」

 そこまでで私は意識を失ってしまった。
 しかしこの大事件は、まだ始まりにすぎなかったのだ。
 この先、数奇な運命が私を待ち受けていようとは――。