「マジで!? 平日だけでもかなり助かる。会食の時以外は弁当が多かったから飽きていたんだ」
「それなら良かったです」

喜んでくれたことにホッとした。
思ったより、この提案に緊張していたようだ。こんな小さなことなのに変なの。
照れくさく感じて話題を変えようと思った時、ハッと思い出した。

「そうだ。野上弁護士から資料を預かっていたんです」

大切なことを忘れており、部屋に戻って慌てて鞄から資料を出して貴也さんに渡すと眉を潜められる。

「野上? あいつと知り合いなのか?」
「知り合いというほどではないですけどね。一度話したことがあるだけです。それで、課長から預かってきたから渡してほしいって」
「あぁ、あいつは俺を勝手にライバル視しているからな、上司への得点稼ぎだろう」

貴也さんも野上さんをライバル視しているのだろうか。その言葉には若干の棘がある。
受け取った手元の資料をパラパラとめくり、英語で書かれた難しい文章を読んでいる。

「でも野上さん、貴也さんのことライバルだって言いながらも、今日は休みなのかとか気にかけていましたよ。実はライバルとか言いながらも貴也さんのこと嫌いではないのかなって思いました」

なんとなくフォローするつもりで言ってみたが、貴也さんはさらに面白くなさそうな表情を向けてきた。

「そうか? いつも面倒臭い感じで絡んでくるけどな。……ていうか、あいつと結構仲良しだね?」

読んでいた資料をパサッと机に置くと、ニコリと笑顔を向ける。
その笑顔にギクッとした。だって目が笑っていない。
これはなんだか機嫌が悪そうだ。
なんで? 怒らせるようなこと言ったっけ?

「別に、仲良しではないですよ。言い方が失礼だからムカつくし」
「へぇ……。別に構わないけど、偽とはいえ俺の恋人という自覚だけは持っとけよ」

釘をさしながら私の指輪に目を向けた。そんなこと言われなくてもわかっている。
なにもそんなに不機嫌そうに言わなくても良いではないか。
野上さんが気に食わないからといって、八つ当たりしないでほしい。

「じゃぁ、その可愛い恋人に心配かけないでくださいね、貴也さん」

私も負けじと嫌味を込めて強気に笑顔を向けると、ポカンとした表情からクッといつものように喉を鳴らして笑われた。

「可愛いは余計だな」
「もう! いいから早く寝てください!」

プリプリと怒りながら食器の片づけをするとリビングから可笑しそうに笑う声が聞こえていた。