「いやぁ、滝本さんが恋愛うまくいかないのって、そうやって相手に何か裏があるって考えるからじゃないのか。感情より、先に頭で物事を考える」
「慎重な性格なんです」
「慎重なのはいいけど、多少軽いタイプの方が異性にモテやすいぞ。あれだろ、石橋を叩きすぎて割るタイプだろ?」
「喧嘩売っています?」

キッと見返すが、木崎弁護士には効かないのかどこ吹く風だ。

「でもその方が助かる」
「ですから何が?」

少しイラッとして言い返すとニヤリと笑顔を向けてきた。

「俺がときめきの練習台になろう。その代わり、君には俺の恋人なってもらいたい」

……ん?
……恋人?
空耳だったのだろうかと、首を傾げて問い直す。

「誰が?」
「滝本さんが」
「誰の」
「俺の」
「何になるって?」
「恋人」
「はぁ!?」

開いた口がふさがらないとはこういうことだ。
私が木崎弁護士の恋人になる?
え、うそ、まさか木崎弁護士って私のことが好きだったの!?
だからこんなことを!?

「いや、そんなに赤くならなくても」
「だって……!」
「シー、声がでかい」

そう言って私の口を大きな手で塞ぐのだからつい黙ってしまう。突然触れるとか、不意打ちはやめてほしい。不覚にもドキッとしてしまった。
慌てる私に、木崎弁護士は冷静に見返した。

「あのさ、勘違いさせたのなら申し訳ないけど、あくまで恋人のフリだよ、フリ」

え? フリ?
驚いて木崎弁護士を見返すとクッと笑われ、今度は恥ずかしさで赤くなる。

「あ、ですよね」
「がっかり?」

ニヤリと笑われるが、大きく首を横にぶんぶんとふった。
ああ、びっくりした。
そうだよね、木崎弁護士のような人が私なんかを好きになるわけがない。
でもそうなら、どうして恋人のフリなんて?

「どうしてフリなんて……。そんなことしなくても木崎先生ほどの人なら恋人くらいいるでしょう?」
「それが今はいないんだ」

木崎弁護士はわざとらしいくらいに大きなため息をつく。

「最近、歳だからか、周りから結婚やお見合いをうっとおしいくらい勧められてさ。俺は今結婚よりも仕事優先だから正直困っている。仕事の邪魔になっているんだよ」

仕事の邪魔だと言えてしまうのが凄い。
それくらい大変なんだろうけども。

「お偉いさん達に無理やり縁談でも組まれたら最悪だろう? 逃げられない。そこに愛なんてないし、なによりお偉いさん達の出世や昇進や家柄のために結婚させられるんだぜ? 不幸でしかない。相手の女性にも失礼だ、そうだろう?」
「はぁ……」
「そこで、だ。滝本さんに俺の恋人のフリをしてもらえれば、周りだってしつこく勧めて来ないだろうし、少しはそういったわずらわしさから解放されて俺は仕事に専念できると思うんだ」

一気に捲し立てるように言われ、圧倒されてしまう。
弁護士に説得されるとそうかとあっさり納得してしまいそうになる。