-霧生-

野外に設営されたテントの中、長谷川が持ってきてくれたカレーを突きながら、さっきからせり上がってくるなんとも言えない感情を持て余していた。
神楽の拒絶は思いの外、俺にダメージを与えてるらしい。
クソっ···生意気な、俺の子猫の癖に。
拾ってきたのは俺なのに、たった一日であいつはチームに受け入れられてた。
それは、喜ばしい事ではあるが···拒絶されんのはありえねぇ。
でも、一番苛つくのは神楽の言葉に反論出来ず引き下がった自分だ。

「そんな顔するぐらいなら、纏わりつく過去にけりをつけろ」
いつの間にか戻ってきた樹弥が、対面のソファーに深く腰を降ろしていた。
神楽を連れて帰ってきた日、樹弥は俺に言った。
『今のままのお前じゃ、神楽は支えきれねぇぞ』と。
自分自身がこのままじゃいけねぇって、ずっと思ってきた。
もう何年もな。
それでも、舞美(まみ)を切り捨てられねぇのは、負い目を感じちまうから。

神楽を拾ったのは、ほんの気まぐれ。
あいつを見た時、自分と同じ匂いがして放っておけなかったってのもあるがな。
神楽を思うこの気持ちが、何なのかはまだ分からねぇ。
それでも、自分以外に懐くのはやっぱりいい気がしねぇな。
総長に縦抱きされて甘えてた神楽を思い出しムシャクシャする。

「霧生、お前の事情にあいつ巻き込むなよ? 女ってのは癖が悪いからな。特にあの女···」
苛ついた様に俺を睨んだのはコウ。
こいつは舞美を異様に毛嫌いしてる。
なんでも、兄貴を騙した女と雰囲気が似てるらしい。
それにしても、昨日は神楽をあんなにも拒絶してた癖に、どう言う風の吹き回しだ。
「お前はいつの間に神楽を心配する様になったんだよ」
「総長と光に言われて話してみたら、まぁまぁ良いやつだった。生意気な女に変わりはねぇけどな」
そんな事を言いながらも、神楽の話をするコウの顔は楽しそうに見える。
あいつは、もうコウまで手中に入れてんのかよ。
どうやら俺の気まぐれな子猫は、するりと人の心に入っていくらしい。

「拾って来たのはお前かも知れないが、神楽は1人で立てねぇほど弱い女じゃねぇぞ。色んな意味であいつはお前より先に進むだろうよ」
お前が立ち止まったままならな、と付け足し手に持ったグラスの中身を飲み干した樹弥の言葉に、胸の奥に苦い何かが広がった。
んな事、言われなくても分かってる。
今の状況がいいわけねぇ事だって分かってるさ。
身動きの取れなくなってる自分にムカついてんのは、俺自身なんだからな。

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