誰も居ない真夜中の海岸線、防波堤に打ち付ける波の音だけが暗闇に響く。
防波堤に登り、波の満ち引きをぼんやりと見つめる姿は人目には滑稽に映るのだろう。

春先の冷たい風が海上を走り抜け、伸ばし放題で自然と長くなった私の髪をゆらりと揺らした。
ふわりと舞い上がりそうになる学生服のスカートを片手で押さえ、胸の奥から込み上げる寂しさに蓋をした。

まだ大丈夫、私は大丈夫。
そう言い聞かせ、今を生きる事にしがみつく。
この黒くうねる海に飛び込む事が出来たならば、きっと楽になれる。
そう思うのに、飛び込む勇気なんて私には無い。
全てを投げ捨て、命の灯火を消してしまう事を怖いと思ううちは死ぬ事なんて出来やしない。
孤独に押し潰されそうになり、何度もこの場所に来たけれど、私は自らの足で元の場所へと戻る事を選んでしまう。

誰か助けて···いつもの様に声にならない悲鳴を上げた時、風に煽られ体がぐらりと揺れた。
それと同時に聞こえた声と、背後から伸びてきた自分の手を掴む第三者の手の感触に、パニックに陥るのに時間は掛からなかった。

「俺の目の前で自殺なんてすんな」
低くハスキーな声が背後から響く。
「へっ?···うわっ!」
女の子らしくない声を上げ暴れた瞬間、私の体はふわりと浮き、真っ逆さまに暗い海へと落ちていった。
あーこれ死んだな···目の前に迫る黒い海面に呑気にもそんな事を思った自分に笑いが漏れた。