翌日から一日のうち数時間だけ講師の付いた講義を受けられるようになった。

クリフ様の指示で離れの館ではなく宮殿の中の客間で行われる。

オリエッタさんかパメラさんのどちらかが付き添ってくれ、彼女たちは同じ部屋で私が講義を受けている間お茶を淹れる以外は刺繍をしながら過ごしている。

オリエッタさんもパメラさんも貴族の子女だと聞いて納得した。

彼女たちがぴんと伸ばした姿で刺繍をしているところなど特に気品があって尊敬と羨望の目を向けてしまう。

私など一般庶民だから仕方ないのだけれどあの雰囲気は一朝一夕で出せるものではない。

それにお裁縫は昔から苦手だった。
だから、うらやましくない、うらやましくなんかないぞー・・・たぶん。

魔法学はもちろん長官さま。
歴史や民俗学はヘストンさん。
法律などは司法省の元長官が来て下さっている。

皆とても親切で分かりやすいから講義を受けるのがとても楽しい。

それに詰め込みすぎはよくないとクリフ様に言われているから、長時間講義を受けないのもいいのかもしれない。

そのクリフ様だけどーーー
私はちょっと心配している。



「楓ちゃん、ちょっといいかな」

民俗学の講義が終わった後で客間に顔を出したのはラウルさんだった。

「こんにちは、ラウルさん。お久しぶりです」

一週間ぶりに会うラウルさんはちょっとお疲れモードで私が勧めたソファーにどさりと音を立てて座り込むと、大きなため息をついたのだった。

「ラウルさん、ずいぶんとお疲れみたいですが大丈夫ですか?」

艶々なはずの群青色の髪はパサつき、顔色もよくない。目の下にはうっすらとクマみたいなものがあるし、擦り傷もある。

「ぜん、ぜぇん大丈夫じゃねぇ。ビエラにも会ってねぇ。死にそうだ!」

ガオッと吠え出しそうな声を上げ「助けてくれ」と頭を抱えてしまったのだ。

室内にいたパメラさんは眉を思いっきりしかめ、護衛の当番だったリクハルドさんは呆れたように片眉を上げた。

「ど、どうしたんですか。私で力になれることがあればーーー」言ってくださいと言おうとして先に
「クリフォード様を止めてくれ」とラウルさんの頭と床がくっつきそうになるほど下げられ懇願された。