流行り病で帰省していた女官たちが、宮中に戻り始めた。

まだまだ人手が足りない中での彼女たちの復活は喜ばしいことに違いない。
花菜たち後輩の女官は、みんな笑顔で出迎えたのだが――。

数日は活気に満ちて何の問題も起きなかったものの、目に見えない亀裂は生まれていたらしい。

『ちょっと、それは私の仕事よ』
『あ、すみません……』
日を追うごとに、黒々と淀んだ空気が漂い始めた。

先輩の女官は新しい女官に辛くあたる。
『そんなことも出来ないの?』
『ですが』
後輩の女官も言われてばかりではない。時には言い争いも起きた。

追加で入った女官たちも、臨時とはいえできればこのまま働きたいと思っている者が多い。
戻ってきた女官は当然辞めるつもりはない。

となるとお互いが、自分の立場を脅かす存在でしかなかった。

それでも後ろ盾がある者にはあからさまな事はしなかったが、
花菜のように実家に力がない者には、苛めの手は容赦なかったのである。

『よくそんなみすぼらしい着物でウロウロできるわね』
『あの子、物の怪がついているらしいわ。少将も夜な夜な京の街を徘徊しているという噂よ』

聞えよがしに言われる悪口。