その日の夜はいつになく風が強かった。

雲の流れは速く、欠けはじめの月は顔を出したり隠れたりと忙しい。

つむじ風がサラサラと柳の葉を踊らせるここは、平安の都。朱雀大路。

陽の光の元ならば多くの人々が行き交うメイン通りだが、
丑三つ時に歩く者はなく、風の音と、ウォーンという犬の遠吠えだけが悲しげに響き渡っている。

暗闇の中、羅城門を背中にして男が月を見上げていた。

髪は総髪。風になびいている。

闇に溶け込む黒い直垂(ひたたれ)に括袴(くくりばかま)を身に着け、目元から下も黒い布で覆っているその姿はいかにも面妖だが、物の怪ではない。

美しい瞳をした若い男だった。