彼の胸で思い切り泣いて、悲しみも苦しさも全て流れ出ていくのを感じた。



ひとりではきっと向き合えなかった感情。

だけど、静がいてくれたから。

気持ちは落ち着いて、自然と自分の中の答えが見えた。





7月最後の日曜日。

休日の朝10時を過ぎた頃、自宅には身なりを整えた私の姿があった。



メイクバッチリで髪も巻き、フレアブラウスに膝丈のタイトスカートを合わせた格好の私を見て、お母さんがたずねる。



「あら、果穂でかけるの?もしかしてデート?」

「じゃないけど。ちょっとね」



いつもなら『映美と』と言ってでかける私が、濁したことに不思議そうにしながらも、お母さんはそれ以上深く聞くことはない。



「どこ行ってもいいけど、お母さんとお父さん、これから群馬のおばさんのところ行っちゃうからね。一泊してくるから、ごはんは自分で食べてね」

「はーい」



お母さんとそんな会話をしながら、口紅を塗り支度を終える。

手元の腕時計を見ると、時間はすでに待ち合わせの10時半に迫っていた。



まずい、もう時間だ。

バッグを雑に手に取ると、慌ただしくバタバタと家を出る。



デートなんて、そんないいものじゃない。

だけど、新たな自分になるため。一歩踏み出すための今日だ。