祈りの洞窟は五百年以上前にその名が付けられたのだと教えてくれたのは、ザックと馬車の操縦を交代したエヴァンだ。

今でこそ魔物の巣窟になっているが、当時はとある部族の棲家だったらしい。

その部族が崇める神は死者の魂を食らう女神で、部族にとっては死んだ者の魂が女神に食われることで綺麗に浄化され天へと還れると信じられていたそうだ。

サイクロプスと戦った広い空間が、儀式や祈りを捧げる部屋だったが、いつしかその部族は滅び、代わりに魔物が蔓延るようになったと。


「エヴァンさん、博識なんですね」


エスディオを目指し次の宿場町に向かう道中、アーシェリアスは雲ひとつない青空の下でエヴァンの横顔に話しかけた。


「まあ、騎士になるには一通りの教養も必要だからな。それに、アイザック様と城を出る前はエスディオに派遣されていた時期もある。学者たちと話す機会も多かったし、そういった話しは自然と耳にしていた」

「じゃあ、幻の料理の話とかは聞いたことありますか?」

「幻の料理……そういった噂は聞いたことがないな」


エヴァンは視線を真っ直ぐに伸びる街道に向けたまま答える。