結局、ナサニエルが城にたどり着いたのは、朝の七時だ。王の不在に城の衛兵たちは慌てふためき、捜索隊が編成されている最中のことだ。
清々しい顔をした彼は、離宮に行っていたこと、カイラを城に呼び戻すつもりだということを宰相他重臣に告げた。

その事実は噂となって、一気に王城内を駆け巡る。
国王の自室の近くの部屋が改装されはじめると、そこに第二夫人が戻ってくるのではないかと使用人たちは色めき立った。

それまで、第二夫人と国王の中は冷めきっていると思っていた人々は、途端に離宮のカイラにご機嫌伺いを立て始めるようになった。

それに不満をあらわにしたのは、当然ながら第一王妃のマデリンだ。

「どういうことなの!」

「落ち着け、マデリン」

彼女のもとには兄であるアンスバッハ侯爵が顔を出している。
なだめつつも、侯爵自身、してやられた思いである。
これまで資金調達のために必要だったとはいえ、足もとを掬われかねない輝安鉱の採掘に絡む一連の懸念事項を、うまくウィストン伯爵に罪をなすりつけることができた。
ついでにアイザック王子を始末できなかったのは残念だが、イートン伯爵家で騒ぎを起こせたことで彼の派閥の勢いをそぐことはできた。まあ上々だろうと思っていたところでのこの騒ぎである。

「まさか、あのふたりが今更よりを戻すとはな。そうなればアイザック王子にすり寄る貴族も出てくるだろう」

議会政治で、一番相手にするのが難しいのが中立派という名の日和見議員たちだ。彼らは自分たちの主張は持たず、その時の第一勢力にすり寄ろうとする傾向がある。せっかく寄ってきた日和見議員たちが、またすぐ離れていくのを想像し、侯爵は頭を抱えた。