月に一度の王家主催の夜会。
そこでいつも話題になるのは、第一王妃マデリンの衣裳の素晴らしさだ。
彼女は国の流行を牽引するように、月一の夜会には新しいドレスを仕立てる。
特に本日の衣裳である深緑地に黒のレースが付いた妖艶なドレスは、人気の仕立て師に半年かけて作ってもらった彼女が待ちに待っていたものだ。

最近はデビュタントの挨拶を受けるとすぐに下がってしまう夫に合わせて退出せざるを得なかったが、今日だけはごめんだ。この新しいドレスを世に知らしめたいのだ。

「マデリン様、こちらですわ」

兄に相談すると、兄嫁と行動を共にしればいいとあっさり言われた。彼曰く、『王妃殿下が夜会に色を添えなくてどうする』とのことだ。

全く兄の言う通りだと思う。
マデリンにとって、兄は間違うことのない確かな道しるべだ。

王の妻となり、彼女は王国の第一夫人としての立場を手に入れ、望む限りの贅沢をした。
なにせ王の子を産んだのだ。それも男の子を。
それだけで、王妃としての務めは果たしたと言える。

(なのに、あんな女にうつつを抜かすなんて)

カイラ。
元は下働きの身元の知れない娘だ。
仕事ぶりに目を付けられ、王城のメイドとして雇われたと聞いている。
それが夫の目に止まり、衣装係として取り立てられ……気が付けば腹に彼の子を宿していた。

その事実を知ったマデリンは、兄に夫の不実を訴えた。
そして自らも、カイラへの嫌がらせを事あるごとにした。