ケータイ小説 野いちご

お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

標的は誰


それからしばらく、ザックとケネスは離宮を訪れなかった。
ロザリーはザックからもらった香木を取り出し、そこから彼の香りを拾い出しては、寂しい気分を紛らわせる毎日だ。

退屈を持て余していたロザリーは、ここで一つ不思議なことに気づいた。
カイラが深夜に徘徊すると、必ず二日以内には離宮の内庭が手入れされていたり、花が増えていたりと何かしらの変化があるのだ。

誰か人が入り込んでいるのかと、訝しんで侍女に聞いてみたが、「警備は万全です。屋敷の者が手入れをしているだけですよ」と言われるだけだ。

(そうなのかな、本当に)

近づいて、香りを嗅いでみる。
ほんの微かに残る、花のにおいとは違う香り。
侍女はああ言ったけれど、嗅ぎ分けのできるロザリーには分かる。
この木々や花を触っている人間の香りは、離宮に勤めている人間の中にはいない。
ここで暮らし始めてひと月ほど経つ。出入りする人間の香りは大体覚えた。

(花をいじっているだけなら、まあ害はないんだろうけど)

だけど気になる。だけどカイラに相談しては怖がられるだろう。実害がないだけに、それもはばかられる。

カイラの夢遊病は以前よりは減ったが、時折、思い出したように部屋の中を徘徊する。
大抵は侍女が対応するのだが、気づいたときはロザリーも向かうようにしている。
そうした状態のとき、カイラはよく陛下の名前を呼ぶ。「ナサニエル様」と。

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