「天宮くんだ!」

「海莉くんっ、一緒にお昼食べよ~」


天宮 海莉。キラキラとした笑みを浮かべながら友と共に食堂へと姿を現した彼に、少しでもお近付きになりたい女子達が群がり、きゃあきゃあと黄色い声を出して騒ぎ出す。

その光景はまるで降臨した神を崇める村人………
否、男に飢えた醜い獣、と例えればわかりやすいだろうか。



彼は所謂、学園のアイドルで、ここ、白河学園に入学した当初から女子にはモテモテ、男子にも人気の絶対的存在。

勉学はもちろんのこと、運動、容姿までもが優れ、その上どこかの有名な社長の御曹司なんじゃないか、なんて噂までたつものだから、そもそも人気者でないはずがない程のハイスペック所持者。


けれど私は、アイツが嫌い、というか苦手というか…気に食わないというか…

つまり、あまり好意的な印象は持っていないわけだ。

それも何故かと聞かれたら時を遡ること約一年前。
入学して初めての中間試験、私は常に一位をとるほどの成績上位者で、今まで一度たりともその一位、という場を退いたことなどなかった。

今回も努力怠ることなく一日何時間も勉強して勉強して、だから信じられなかったのだ。
二位という結果に…

見ればわずか一点差、たった一点だと思うかもしれないし、友人にも「二位だなんて凄い!」なんて褒められたけれど、私にとってはたかが一点でも負けは負け。
許せなかった。
自分を負かした奴が憎くて憎くてしょうがなくて、私を押し退け一位に君臨し、そしてドン底に突き落とした奴の名を見れば、天宮 海莉という文字がデカデカと負けを罵られるように、見せつけるかのように書かれてあった。



あまみや みり?
漢字を見ただけであればそうも読めてしまうがために、女だと思っていたが、後に友人に聞けばその名は、みりではなく、かいりなのだという。

私にとっては女だろうが男だろうがどうでも良くて、顔すら知らぬ相手に人知れず敵対心を燃やしながら挑んだ期末試験。

今回こそは一位へと舞い戻ってやろうと、いつも以上に勉強した。

が、そんな努力報われず結果はまたもや二位。
最早、絶望の域だった。
これほどまでに頑張ったというのにその結果は変わらず…

天宮 海莉、貴様を許してなるものか!

絶望の縁に追いやられても尚、諦めぬその心はゴキブリ並みの生命力かもしれない。
なんて、自分で思いつつも、敵である彼と面識することなく過ぎ去ること一年。

あっという間に経った一年の間も一位奪還はできず、因縁と化し天宮 海莉に対する憎悪で呪い殺しでもしそうな程に憎い、憎い!憎くて仕方がない!


そんなことがあったが為に、1度も話したことすらない彼には意味もない敵対心を燃やしていたわけだ。