第1章〜感情〜
僕は、感情を表に出せない。
それはきっと、僕だけではないだろう。
世界は広い。きっと、他にもいる。そう僕は思っていたい。

僕は横山想太。高校1年生だ。
僕の日常は、楽しいわけでもないし、楽しくないわけでもない。
そんな僕の生活を、彼女が変えてくれたんだ…
「想太ー
ずばり、今の感情は?」
彼女は佐野愛。同じクラスで、僕の理解者だ。
僕に話しかけたと思えば、いつもこの質問。
「別に、普通だよ」
僕はいつもそう答える。
「だからー、普通っていうのはダメだって何回言えばいいの?
普通以外の言葉でちゃんと説明して!」
「普通は普通だよ。嬉しくもないし、悲しくもない」
「えー」

僕は、愛にさえも、中々素直になれない……愛はちゃんと僕に親切にしてくれているのに、僕はいつも「普通」としか言えない。
愛は、僕が感情を表に出せるように協力してくれている。
でも、僕はまだ、感情を表に出せない。
僕がなぜ感情を表に出せなくなったのか、それは1年前、中学三年生の時だった。

ー1年前ー
「想太!どうしてあなたはいつもそうなの?!」
事の発端は、母親からの虐待。
両親は僕が小学三年生の時に離婚し、今は母親と二人暮しをしている。
僕は元々人前で明るい子でも無かったし、思ったことを正直に言わない子だった。
「想太!どうにか言いなさいよ!!」
母親も仕事のストレスが溜まっていたんだろうか、帰ってくるといつも僕に八つ当たりをする。
怒鳴られては殴られ、殴られては怒鳴られ……
そして、殴られた痕を保健室の先生や担任の先生に見つかり、僕は児童相談所に連れていかれた。
もちろん、母親にまた引き取られたが、家に帰ってくると、また……
「どうして私が怒られないといけないのよ!!想太!さては先生達に言ったね?!」
そして、僕はまた殴られる。

痕を先生達に見つかる度に、僕は児童相談所に連れていかれた。
それから、僕は親戚に引き取られて、母親の代わりに大切に育てられた。
僕はその出来事がトラウマになり、感情を表に出せない。

このことを愛に話すと、彼女は泣きながらも真剣に僕の話を聞いてくれて、
「大変だったね。話してくれてありがとう」と言ってくれた。
それから愛は、僕に付きっきりになってくれて、僕といるせいで、彼女は他の友達とも話せていない。
だから、僕はいつも言う。
「ねぇ、何度も言うけど、僕は1人でも大丈夫だから、愛も友達の所に行ってきなよ」
彼女の答えはいつも、
「ダメだよー。想太を1人にしておくと心配で、他の友達とも話せないから」

どうして、彼女は僕に付きっきりで、僕が感情を表に出せるように協力してくれるのか。
僕はその理由を知っている。
彼女は余命が残り半年だからだ。