「ユウナちゃん、今日ステップ踏むときつまづいてたでしょ」

先日とは違う場所で行われたライブでの握手会で、たまに来てくれる男性が握手しながら言ってきた言葉に勇菜はしーっと人差し指を口に当てた。

「言っちゃダメです。
もしかしたらみんな気づいてないかもしれないんですから」

「「いや、気づいてたから」」

握手をしている人とその友達と思われる男性が同時に笑いながら言ってきたので、勇菜は思わず眉を潜めた。

「上手いこと誤魔化したと思ったんですけど」

「ステップを覚えてない人からしたらわからなかったかもしれないね」

「あと、ユウナちゃんをずっと見てたから気づいたのかも」

「えー、見ないでくださいー」

何でだよ。ユウナちゃん見に来てるんだよ。と二人がさらに笑って、またね。と手を振って去っていく。
見てもらうのは構わないけれど、ドジなところばかりを見られるのは困る。

どうしたものかと考えながら次の人と握手をしていると、印象的な姿が目に入った。

「あ……シキテンさん」

「……はい?」

思わず声に出た内輪の愛称に常連の人は間を置いて首を傾げた。
隣で陽人がまた口パクで“バカ”と言った気がしたけれど、勇菜は笑って誤魔化してみた。