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「ごめんねー、瑠花ちゃん。響平がお世話になりました」

泉くんが寮まで迎えに来たのは、朝の5時半を回った頃。


私が眠ったあと、響平が電話で連絡を入れていたらしい。



「ひっさびさに外に出たなあ。修学旅行の夜にホテルこっそり抜け出す、くらいのスリル感だった。嫌いじゃないけどね。正直、今もヒヤヒヤしてる」


泉くんの言う“外“というのは、たぶん“あの街の外”という意味。



「暗黒街から出ちゃいけないっていう、決まりみたいなのがあるの?」

「うん。そういう感じ」

「それ……大丈夫なの? ふたりでこんなところに来て」

「全ッ然大丈夫じゃないよ」



なあ?と響平に同意を求めて、ケラケラ笑ってみせる。



「あの人がいない時間帯でよかったよな~ほんと。ってか、そもそも。あの人が出掛けるからってことでお前が呼び出されたんだっけ」

「あんま覚えてねぇな」

「飼い犬に注射打って出かけるなんて、ご主人様は徹底してるね」



──飼い犬?


心臓がドクリと音を立てた。

だけど、ふたりは特になんともない様子で話を続けるから困惑してしまう。