『雪菜、この本は面白かったかい?』

私に話しかけるお兄ちゃんの声が好きだった。

『うんっ!さすがお兄ちゃん!』

お兄ちゃんの紡ぐ物語が大好きだった。
たまにしか会えなくてもお兄ちゃんは私のトクベツだった。

お兄ちゃんは昔から体が弱く、学校にも行けずに入院生活を送っていた。
だからかもしれない、お兄ちゃんの描く物語はキラキラしていて、現実とは違う優しさに満ちていた。

登場人物たちは豊かに表情を動かし、生きることに希望を持っている。私の知っている世界よりもずっと綺麗で素敵だった。

お兄ちゃんは辛い現実とお別れして、あっちの世界に行ったのかもしれない。
もしもそうなら、私もついて行きたかった。
あの日から何度も思った。

どうやって死ねば痛くないだろう?
辛くないだろう?
でも本当は死ぬのなんてあっという間で、お兄ちゃんのいないこの世界よりも辛くないのかもしれない。