サラリーマン風の男は、しりもちをついた。

 俺はかろうじて階段を転がり落ちずにすんだ。 

 彼の目が丸くなっていたのは一瞬で、気を取り直したように、階段をかけ下りて行った。

 どうやら、サラリーマンの朝の出勤の方が、透明人間とぶつかったことより重要らしい。サラリーマン恐るべし。 

 俺は改札口で、定期券を出そうとしたが、あいにくカバンも家に置いてきたし、素っ裸なので今日は定期券はない。

 自動改札口の並びのパイプの柵を乗り越えた。

 改札口を通ると右手が上り方面ホームへの階段、真ん中にトイレ、左手は下り方面のホームだ。

 学校へは下り電車に乗って行くので、さほど混んではいない。

 座席もポツポツ空いてるのだが座る訳にはいかない。

 透明人間の俺の膝に誰かが座ったら大騒ぎになる。まして裸の俺の膝に女性が座ってしまえば、透明人間初の痴漢の烙印が押される。

 俺は車両と車両の間の連結のところに移動した。