ケータイ小説 野いちご

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夢の続きは眼鏡を外してから。





「俺、諦めませんよ。由香さんの事。」



「ちょっと…止めてよ。名前で呼んだりとか…誰かに聞かれたら…」

今日は会社の飲み会。トイレで化粧を直して出てくると、4つ下の後輩、佐々木くんが待っていた。

「何で避けるんですか?」

ひと目につかない奥まったスペースに追い詰められ、逃げ場を失う私。

背中には壁がそして、目の前には不機嫌顔の佐々木くん。

「何でって…私には彼が…」

「そんなの最初から知ってる。」

「だったら…」

「じゃあ、あの時、何で、…なんで俺に抱かれた?」

そう、私は、1ヶ月ほど前に、目の前にいる会社の後輩である佐々木くんに抱かれた。

二人だけで残業してて、食事をして何となくいい雰囲気になってそのまま……

ヤケになってたのかもしれない。

ちょうど付き合ってる彼の浮気を知った次の日の出来事だ。

見た目も性格も地味な眼鏡ブスの私よりもずっと華やかで愛嬌のある可愛い女の子が彼に寄り添うように歩いているのを偶然にも見てしまったのだ。

何となく、彼の気持ちが私から離れていってるのを感じつつあったけれど、この歳になってくるとそんな恋愛にすらも縋り付きたくなってしまう。

私は見て見ぬふりを決め込んだ。

来月の誕生日がくると私は30になる。

簡単に次の恋愛へとは切り替えることが年々難しくなっている。

それに彼とこれまで付き合った3年と言う月日を無駄なものにしたくない。

私さえ、我慢すれば…

苦しい思いに蓋をするように佐々木くんと一夜を過ごした。

これまで真面目一筋でやってきた普段の私からするとあり得ないことだ。

けれど、その時だけでも忘れたかった。

辛い現実を。

その夜だけでいいから一人で抱えたくなかった。




「そもそも彼とは上手くいってないんですよね?だからあの時、俺を求めた。違う?」

そうだった。

お酒の勢いで付き合ってる彼に浮気されたって事、佐々木くんに喋ったんだっけ?

そしたら、

ーーーー俺が何もかも忘れさせてあげますよ。

佐々木くんの言葉に、熱を帯びた視線に、私は身を任せてしまったんだ。

私は4つも下の後輩に縋り付いた。

何もかも忘れさせてよって。

「俺、由香さんの事、本気だから。今だって、あんたの事をめちゃめちゃにしてやりたい…あの夜のように。」

ほら、止めてよ…

そんな目で見ないで

自分でも気付きつつある。

あの夜を過ごしてから私が求めてるのは彼じゃなくて目の前にいるあなただってこと…


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