雑然とした理衣の部屋には、久世君と理衣と発明品の数々だけが残された。


「…」

「…」

「…姉と、友達なの?」


理衣が硬い表情のまま、抑揚の無い話し方で、こう切り出した。


「うん、今日から」


久世君が答えると、理衣は彼をじっと見つめた。



「…姉は、意外とややこしい」

「…?」

理衣は久世君の目をもう一度見てから、ペコリと軽くお辞儀をした。


「どうか、姉をよろしくお願いします」


「うん」


「…」


「…ややこしい?」


「多分、そのうちわかると思う」


「…?」




久世君は、理衣にこう切り出した。

「何か、お礼したい」

「お礼?」

「スマホ直してもらったお礼」


理衣は、目を見開いた。


「別に大した事では…」


「助かったから」


「…」

「…」


「久世君、いい人」



「別に…」



久世君は、照れたように理衣から目を逸らした。


この一連のカタコト会話を瑠衣がもし聞いていたら、ぎこちなさ過ぎて可笑しくなり、吹き出してしまっていたかも知れない。


カタコト人間の2人が、ようやく打ち解けた瞬間だった。



理衣の表情から、ようやく硬さが取れた。



彼女は、背後にある雑然とした棚の上から、プラスチックの黒い携帯ケースらしきものを取り出した。よく見ると、左下にデブォルメされた小さな可愛い白猫の絵が描いてある。


「これは、シルリイ」


「シルリイ…?」


「試作品12号で、まだ改良中」


左手の中にある『シルリイ』という名の携帯ケースを見つめ、理衣は呟いた。

「でもシルリイ最新作。出来立てホヤホヤ」


「?…携帯ケース?」


「ただの携帯ケースじゃない」


久世君は、どう見ても携帯ケースに見えるそれを、じっと見つめた。


「会話できる。あと、姉を呼べる」


「…は?」


「たまに呼べない時もある。だから改良中」



理衣は手の中にある携帯ケースを、久世君に渡した。


「お礼はいらないけど、これを時々試して、経過を私に教えて」



「…」


その時、階段の下から瑠衣が2人を呼ぶ声が聞こえた。



「姉には内緒で」



理衣は立ち上がり、口元に人差し指を立てた。







母の強い希望により、久世君は夕飯を瑠衣の家で食べて帰ることになった。

瑠衣は先程まで夕飯の支度を手伝いながら、根掘り葉掘り母から久世君との事について質問攻めに遭い、うんざりしていた。


「どんどんおかわりしてくださいね〜」


母はご機嫌である。
テンションMAXである。


いつもより、豪華な食卓。
家にイケメンが遊びに来たのは初めてだったので、物凄く気合いが入ったに違いない。

「ありがとうございます」

久世君が我が家の食卓で、揚げたての唐揚げを一緒に食べている。

…かなり、不思議な光景。

「久世君、瑠衣と理衣、そっくりでしょう。家族以外2人の違いを見分けられる人、いないのよ〜」

母が言うと、久世君は瑠衣と理衣を交互に見比べた。

「そうなんですか」


瑠衣は味噌汁を飲みながら、これを聞いて、ある事を思いついた。

「後で、ゲームしてみようか。理衣とお揃いの服があるからそれを2人で着て、久世君が私達を当てられるかどうか」