『…』
私は呆然と彼を見詰めていた。
今は保体の陸上の授業。
50m走の授業。
私の視線の先には彼の走る姿。
いつも何もかも無気力でやる気の無いイメージの彼は、6秒台を叩き出す程に早い走りを見せた。
見とれるのも無理はないと思った。
短い綺麗な黒髪は風に揺れていた。
戻ってきた彼は前髪を邪魔そうに首を振ってよけた。
何故かさっきから彼の一つ一つが心臓に響く。

(何でだろう…)