私の心臓は早鐘を打っていた。
それでやっと気付いた。

(私は…この人が好きなのか…)

鈍感いじりをよくされてきたが、それについに否定できなくなったな…と、呆然と思う。
私は自分の心臓の音のように、彼の心臓の音も聞きたいな…

(できれば君にもドキドキしててほしいな…)

なんて、ワガママを押し付けそうになる。
それを堪えつつ、彼の胸に両手を力無く、パーにしてあてる。

(…凄い音が鳴ってる…)

思わず無意識に少しだけ彼の体操服を掴む。
どうせ君がそんなに心臓の音を早くしているのは、単純な好奇心って分かってる。
でも…

(それでも良いから、君が欲しい…)

私は彼が顔を近付けてきたのを敢えて拒まなかった。

『チュッ…』

夢のような一度のキス。
これで少しでも記憶に残ってくれたらな…

『…ゴメン…何でもない…忘れて』

そう言って彼は顔を真っ赤にして離れる。
好奇心と欲でこんな事をして、恥ずかしかったのかもしれない。

『うん…』

そう言って寂しそうな顔をして、笑ってしまったのは誤算だった。