「ほんで新しいメニューをな、作ろうと思うねんけど、どないやろ?」

「うーん。良いんじゃない?」

「けど、コストはかけられへんし。手間かからへんやつ考えなあかんくて」

「うーん。良いんじゃない?」

「まぁ、先に人手を確保せなどうにもならんねんけどな。ネコの周りにバイト探してるやつおらんか?」

「うーん。良いんじゃない?」

カウンターに座り、明後日の方向を向いて返事する夢子に礼二は口をへの字に曲げる。夢子の目の前で手をパンッと叩いた。

「うわっ!な、なに⁉」

「なに⁉はこっちのセリフや。なにぼーっとしてんねん。俺の話聞いてへんかったやろ」

「聞いてたよ~。私も餃子は酢コショウが至高だと思う」

「誰もそんな話してへん」

礼二はやれやれ、と首を振った。

「まーた得意の寝不足か?こんな所でくだ巻いてる暇あったらさっさと寝ーや」

「くだなんか巻いてないよ!そうじゃなくて…」

手元にあるシェリーグラスを弄びながら夢子はため息をつく。

「富戸さんてさぁ、どんな人なのかな?」

「富戸?誰やそれ?」

「睡眠相談室のオペレーターさん。私の時いつも富戸さんなんだよね」

「あぁそうなん?なんやネコ、その男の事気になるんか?」

ニヤニヤ笑う礼二に夢子はムッと視線を返す。こういう時は開き直るのが一番だ。

「そうだよ。おっしゃる通り。私、富戸さんの事が好きになったの」

「はっ⁉す、好き⁉」

夢子の発言に礼二の声が上ずる。

「紳士的だし、優しいし。口調は柔らかくて。素敵な人だよねぇ」

「いや、そ、そんな訳の分からん男なんか止めとけ!なんや、そんな顔も知らへんわざとらしい優男よりもっとええ男が…」

アワアワとなぜか慌てた様子の礼二をしばらく眺めていた夢子だったが、堪えきれずブフッと吹き出した。

「あはは!嘘嘘!ごめんね、そんなに驚かれると思ってなかったからさ~」

「はぁ…え。嘘…?」

「そう!富戸さんは好きとかじゃなくて、不思議な雰囲気だしどんな人なのかなぁってちょっと思っただけだよ。心配してくれるなんて優しいね、礼二は」

「ちゃうわ。変な男に引っ掛かってここで愚痴られる未来が見えただけや」

さっきまで狼狽えていたが、それが無かったかのようにスンッと澄ました表情で言ってくる。

「またまた~。照れちゃって!優しい優しい礼二くん♪」

「…もー閉店や閉店。うざ絡みする客しかおらんからもう閉店しよかなー」

「え⁉まだ12時だよ!閉店までまだ2時間もあるじゃん!」

「はーい、12時と言うことはまもなく終電の時間なのでお客様はお帰りくださーい」

「え、あ、そっか!も~、言い方腹立つけど教えてくれてありがとう!」

夢子が席を立つと、店のドアベルが少し鳴った。新規の客かと入り口を見るが誰もいない。

「あれ?お客さん来たかと思ったけど」

「風やろ。今日風強いらしいからな。この店もボロいし、先にリフォームせなあかんかもなぁ」

「えー。この外観好きたからやだよ。ドアの修理なら私も手伝うからその時は呼んでね」

夢子はお代ぴったりをカウンターに置くと、ハンドバックをつかんで店を後にした。