高校三年の春。
「窪田(くぼた)です」
 我が料理部に。男子部員が、入った。
 わたしの知る限り女の子しか出入りしてこなかった部室に男子がいることだけでも新鮮なのだけれど――
「手際よすぎ」
「完成度たかッ」
「……なにより。絵になる」
 料理の腕はさながらルックスの良さから、『クッキング王子』なる愛称がつけられた窪田くんは、またたく間に学園のアイドルになった。

 その効果で部員が集まるかと思われたが、
「見んなよブス」
「気が散る。失せろ」
 部室を覗く部外者に罵声を浴びせることから、王子は王子でも毒舌王子となり。
 触らぬ窪田に祟りなし。
 彼を遠くから眺め幸せチャージするくらいが丁度いいとされ、近づく勇者はそう現れず、現れたところで彼に相手にされる気配は微塵もなかった。
 一部では『窪田くんのドレイになりたい』『あの小生意気なガキを躾け直したい』というマニアックなファンの心に火がついたらしいが。
 そのへんの事情は、彼のみぞ知る。

 わたし、小坂(こさか)ひなたは、料理部の部長だ。
 料理の腕といえば、
「ひなたー。またやっちゃったの?」
「……うう」
 最低最悪。ブラウニーが黒くなりすぎて食べられるところがなくなるくらいには。
「焦げ臭!!」
「換気扇じゃ無理、窓あけてみんな!!」
 失敗ばかりしてきた。
 そんなわたしが部長なのは、
「ひなたはうちのマスコットキャラクターだから」
 という謎理論でわたし以外の三年の意見が満場一致したからだ。

 まあ、会計とか難しいことを任されるよりは、みんなの意見を聞いてまわったり、部活紹介でマイクの前に立つような仕事が性に合っているとは思う。

 ただし――
「2年間なにやってたんスか、センパイ」
「……っ」
 この毒舌王子くんは、ちょっと、苦手だ。