「河野さん、聞いてますか?」


さっきから先生に何回もアタシの名前を呼ばれているのに、気付かないほどに過去を思い出すなんてどうかしてる。


「すいません…」


「河野さん、25ページの全文を読みなさい」


先生がアタシにそう告げた。


それを聞いたアイツが嬉しそうにアタシを見たのは、言うまででもない。


手には、スマホ。


録音のスタンバイ画面が表示されている。


…先生、読む前にアイツをつまみ出してくれませんか?


そう。アイツはアタシの幼馴染である健永くん。


はぁ、と深くため息をつきながら、健永くんに感謝してるの。

どんなアタシでもいつも側にいてくれる。


「どした?元気ないじゃん」


アタシの心配をしてくれる健永くんにあり得ない事を言ってきたのは…


「初めましてさん、祐華の声を録音するの、やめてくれん?」


しかも、"さん"が付いてるし。

初めましてじゃないと思うけどね。

一応同じクラスなんだし…

てゆか、ため息付いてるアタシに慰めてくれてる時点で察してくれ。


「お前には関係ねーだろ」


「いや、ある。祐華は俺の彼女だから」


「祐華、本当なのか?」


「違うから。この人話した事もないし、知らない」



不安そうな顔でアタシに聞いてきた健永くんに、アタシはこう答えたら…


「それ彼氏に対して言うこと?」


「付き合ってないから、アタシたちは」


「祐華」


「勝手に呼び捨てにしないでよね。そもそもアンタの彼女じゃないから、あっちに行ってよ」


「こんな俺でも傷つくよ?」


切なげな顔をする杉野くん。

え、ここで凹むの?

杉野くんに散々突き放してきたけど、全然凹まなかったじゃん。え、このタイミングで!?


「ストーカーさん、悪いけど、祐華にもう関わらないでくれない?」


ストーカーさんって笑えた。

健永くん、よく言ってくれた!

健永くんを褒めようとしたら…


「は?」


ついにアタシの幼馴染VSストーカーさんになってる…


「他の奴にしたら?」


うんうん。
健永くんの言う通りだよ。
他の人にしてくださいよ…



「俺の彼女を、初めましてさんが決めることじゃない」


なんなの?
しかも健永くんを"初めましてさん"と呼んでるし…


「じゃあ、アタシも言わせてもらうけど、アタシの彼氏はアンタが決めることじゃない!」


やっぱ、杉野洸太は変な人だ…