第1章 席替え

ついてるな、自分。

黒板に貼り出された席替えの配置表を見て、興奮を抑えるのに苦労する。誰も周りにいなかったら、その場でガッツポーズして叫んだかもしれない。やばい、顔がにやける。こんなところ親友のマキに見られでもしたら最悪だ。

「おっはよ。奏の席どこよ」

ポンっと軽く肩を叩いてきたのは、今丁度頭に浮かんでいたマキだった。

いかんいかん、顔を戻さないと。

「おはよ、マキ。窓側の後ろから2番目」

「いいなあ、窓側。私なんてど真ん中の前から2番目だよ。寝てたらすぐに見つかる。まじ最悪」

「黒板見やすくていいじゃん」

「また心にもない事を。あれ、奏の前の席って、、、」

「予鈴鳴ったよ」

やばっ。
マキが言い終わる前に、被せ気味に言ってしまった。焦ったのバレたかも。

「そだね。んじゃまた後で」

ヒラヒラ手を振りながら自分の席に向かうマキを見て、そっと息を吐き出す。

良かった、気づかれてない。
やばいな、自分、動揺し過ぎ。

顔をうつむき気味にして、窓側の席に向かう。

そっと視線だけ前の席に向けて確認する。

あ、もう席着いてるんだ。
落ち着け、落ち着け。

あり得ないくらい自分が緊張してるのが分かる。
すれ違った時に、風に揺れた髪が視界の端に映って、思わず立ち止まってしまう。

気配を感じたのか、視線をあげた彼女と目が合ってしまった。

「おはよう、立花さん」

そう言ってにっこり微笑むのは、佐原恵那。
その名前を見た時から、胸を騒がせてきた張本人だ。

ダークブラウンのふわりと波打つ艶やかな髪、濡れそぼったようにつぶらな瞳、啄ばみたくなる愛らしい唇。
彼女を見て目が離せなくなるのは、自分だけではないはず。

「お、おはよう」

どもりながらも、どうにか返事を返せてホッとする。
気まずさを隠すように、カバンを彼女の後ろにある机にドサっと下ろした。

「そっか。後ろ立花さんだったんだね。よろしくね」

語尾にハートマークでも付いてるのかと思う程はずんだ声に、上手く反応出来ない。
喜びで満たされる心と、「誰にでも愛想よくするんだな」と冷静になる気持ちが相まって、どうしていいか迷う。

結局、ぎこちなく頷き返すしか出来なかった。

自己嫌悪に陥ってる自分を見て、可笑しそうに唇をキュッと上げてから彼女は背を向けて前に向き直る。

なんでこんなカッコ悪いんだ。

思わずガシガシと頭を掻きむしりたくなる衝動にかられる。

数分前に座席表を見た時の喜びと興奮が一気に沈下するのを感じた。