「ねぇ、琉羽ってば、聞いてるの?」
「えっ!?」

琉羽(るう)という、自分の下の名前を呼ばれてハッとした。頭にズキンと鋭い痛みが走って、目の前が真っ暗になる。

いったぁ……。

頭が鈍器で殴られたかのようにひどく痛んで、思わず指でこめかみをグリグリと押さえた。ピクンピクンと感じる拍動。割れるように痛くて、目の前がかすむ。

「琉羽?」

わたしの名前を呼ぶ優しい声。

これは、誰の声だろう。

ズキズキとした頭の痛みは、波が引いていくかのように徐々に消えてなくなった。そのすぐあとに、身体の中を血液がじわじわと巡っていくように熱くなる。

自分の身体と意識が、今ようやくリンクしたかのような感覚を覚えた。わたしは……いったい。
次第に視界が開けて、呆れ笑いを浮かべる友達、近藤 菜月(こんどう なつき)の顔がクリアに映った。

え?

「な、んで……」
予想もしていなかった不意打ちの出来事。ようやく今、自分が置かれているこの状況を理解する。そう、わたしはたった今、ここに来たのだ。

すべての意識が今この瞬間にここに来た。そう表現するのが一番しっくりくる。

それよりも、どうして……菜月がここに?

菜月は高校生になってからできた友達のひとりで、いつも一緒にいた四人グループの中で一番大人しくて、控えめな女の子だった。

奥二重だけど猫のようにまん丸い目に、スラリと伸びた白い手足。腰までのストレートの黒髪をポニーテールにして、サラサラで艶のあるその髪の毛を、わたしはいつも羨ましいと思いながら見ていた。

仕草や振る舞いがとてもお上品で、成績優秀、運動神経抜群、それでいて美人。あまり目立つことをしないタイプだけど、菜月は黙っていてもそれだけで目立つ存在。