ルメール村を出た私は、ラヴァンディエ帝国と南の国境を接するティオール王国の小さな町に移り住んだ。

平民の商人の男性と結婚した母の異母妹にあたる叔母を頼り、素性を隠す為にリース・メルノと名を変えた。

地方の男爵家とはいえ一応貴族だった私が平民として暮らすのは大変で、慣れるまでは苦労の連続だった。

それでもなんとか無事に娘のリラを産み、試行錯誤しながら暮らし始めた。



それから四年――――。


私は裁縫と刺繍が得意だったので町の洋裁店で雇って貰え、なんとか生計を立てている。

リラは三歳になり、段々と言葉も覚え元気よく動き回るようになった。近所の子供達とも仲良くなり、毎日楽しそうに過ごしていた。けれどそんな日々に陰りが差し始めていた。