遠野side


「今度の土曜泊まりの仕事だから一人にさせるけど大丈夫か?」
父が心配そうな顔をして私に話す。
「うん。大丈夫だよ」
「そうか。戸締りとかしっかりするんだよ」
「はーい」
そして父は本を読み始める。
今度の日曜は一人か...。一人の時間も嫌いではなかったため何をしようか考えながら私は部屋に入っていった。






「土曜ライブ行かない?」
元気な声でライブに誘う佳奈。
「ライブ?」
「うん!私が好きなバンドのライブ。別の子と行こうとしてたんだけど予定入っちゃったらしくて...。だからどう?」
日曜はちょうど父が泊まりで仕事の日。帰りが遅くなっても怒られる心配はない。
「うん。いいよ」
「やったぁ!ありがとう」
佳奈はワクワクしながら携帯のスケジュールに私とライブに行くことを書く。
「そう言えばさぁ最近久雅先生さらにカッコよくなったと思わない?」
「...そう?」
「もーなんで結衣は先生の良さ分かんないかなぁ」
以前よりもカッコいいと思っているのは事実だった。しかし私が先生のことを気にしてしまったら、もし好きになってしまったらダメだと自分を制していた。
先生と生徒でそういう関係はいけない。そもそも先生は私をからかっているだけかもしれない。好きになって、期待して傷つきたくない。私は先生を気にしないようにすると決めていた。
「結衣ってどんな男の子が好きなの?」
「...一緒にいて安心できる人」
「なるほどねぇ。気になる人とかいないの?」
男子と多く話すタイプではない。そのため仲良くなる男子もいないし、しっかり話したわけでもないのに好きになるタイプでもなかったため好きな人は出来ていなかった。
「うん。いない」
「はぁ...。華の女子高生が泣けるねぇ...」
「私は恋してなくても良いの」
「まぁ結衣がそう言うなら良いけどさぁ...」
そう話しているうちに昼休みが終わりのチャイムが鳴り、佳奈は自分の席に戻っていった。
好きな人はいない。それで良い。そうであるべきだと心の中で何度も呟いた。